イノウ(2011)『世界一わかりやすい医薬品業界の「しくみ」と「ながれ」』(ISBN:9784426113377)を読みました。製薬会社などへの就職を考えている人向けの業界入門書でした。本当は新型コロナウィルスワクチンのことを調べ始める取っ掛かりと考えたのですが、ワクチンの「ワ」の字も出てきませんでした。内容と読後の感想を簡単に記します。
まず医薬品の教科書なら必出の「医薬品の分類」です。①医療用医薬品、②一般医薬品(OTC)、③医薬部外品に分類されます。医療用医薬品は処方箋なしには購入できないため、処方箋が無い人は包丁を持って薬局に行かないといけません。というのは冗談ですが、7月1日のあの薬局強盗は未だ捕まってないのでしょうか...?困ったものです。一方、使用目的から「治療薬」「予防薬」「検査薬」「試験薬」などに分類されることもあります。
そんな医薬品のなかで売り上げの7割を占めるのが医療用医薬品(後発医薬品除く)です。年間売上約7兆円と言われています。新薬が1製品開発されれば年間1000億円以上の大ヒット薬になることもあります。新薬は「基礎研究」→「非臨床試験」→「第1相試験・第2相試験」→「第3相試験」を経て承認に至ります。
新薬開発プロセスについて
基礎研究というのは、ある化合物にどのような薬効があるのかを確認する「シーズの探索」から始まり、その化合物の組成を一部変化させたり、製法を変更したりしながら、より薬効を高めてゆく過程です。一般に5~8年かかるとされています。そんな中、RNA干渉によってmRNA(メッセンジャRNA)に直接作用するRNAi医薬技術の研究は短期間での創薬が期待されるため現在注目を集めています。
ある程度の薬効が期待できる候補物質が絞り込まれれば非臨床試験に回されます。非臨床試験は簡単に言えば動物実験です。「ラット」「犬」「サル」などの哺乳類が用いられます。
期待した薬効が得られているか確認する「薬理試験」、投与した候補物質のうち、どの位が体内に吸収され、時間とともにどの部分にどの位留まって、最終的にどの位で排泄されるのかを調べる「薬物動態試験」、そしていわゆる副作用が無いかを確認する「毒性試験」が実施されます。
毒性試験について少し詳しく述べると、
(1)急性毒性試験
投与してすぐに不具合が起こらないかを確認し、不具合が出始めるとするなら、どの程度の量からなのかを調べる試験ですね。
(2)反復投与毒性試験
1回きりの投与なら特に問題なくても、複数回投与すると前回の残留物が干渉して悪さをする場合があります。もし不具合が起こるなら、どの位の時間間隔をあける必要があるのかを調べます。
(3)生殖発生毒性
候補物質が体内に残留している間でも妊娠することが可能か、妊娠可能だとしても胎児が正常に成長するのかどうかを確認する試験です。
(4)遺伝毒性試験
候補物質によってDNAが損傷しないか、そして染色体異常が起きないかを確認する試験です。
(5)がん原性試験
候補物質によって発がん率が増加しないか確認する試験です。
(6)局所刺激性試験
???
などの種類があるようです。
再び新薬開発プロセスに戻って
以上の非臨床試験は厚生労働省医薬食品局が通達したガイドライン(GLPといいます)に基づいて実施されることが義務付けられています。非臨床試験には通常3~5年の期間を要するとされています。
つづく第1相試験、第2相試験、第3相試験は臨床試験とか治験とも呼ばれます。第1相試験では少数の健康なヒトを対象とするため安全性のみの確認となります。第2相試験では、いよいよ患者に投与し安全性以外にも有効性や薬物動態(先述の体内滞留状況のことです)、用法・用量などが検討できるようになります。そして第3相試験ではインフォームド・コンセントのもと多数の患者に治療を兼ねて提供されるようになります。第1相試験~第3相試験も当然非臨床試験同様に厚労省のガイドライン(こちらはGCPといいます)に基づくことが義務化されてます。
第1相試験~第3相試験を通じて3~7年の期間を要するとされています。それぞれのプロセスの期間が全く重複しないわけではないでしょうが、仮に完全に重複しないと仮定するならば、基礎研究の開始から第3相試験の終了まで11~20年かかる事になりますね。
製薬会社について
さて、このような新薬を開発している製薬会社ですが、日本国内では「武田薬品工業」「第一三共」「アステラス製薬(2005年に山之内製薬と藤沢薬品の合併による)」「エーザイ」が年間売上100億ドル級の4強と呼ばれています。
しかし外資の進出や、海外資本との合併・技術提携も頻繁に行われているようです。「バイアグラ」を開発したファイザー(アメリカ)は世界1位の売り上げですが、その他にも高血圧治療薬「コザール」を開発したメルク(アメリカ)やリウマチ薬の「レミケード」を売るジョンソン・エンド・ジョンソン(アメリカ)、抗うつ剤「パキシル」のグラクソ・スミスライン(イギリス)、抗体医薬品「アクテムラ」のロシュ(スイス)、抗がん剤「クリベック」のノバルティスファーマ(スイス)、抗潰瘍剤「ネキシウム」のアストラゼネカ(イギリス)などが巨大製薬企業とされています。