破壊する創造者

昨今の新型コロナウィルス肺炎の流行から、昔読んだ本の内容を急に思い出しました。どこかにレビューを書いたなと思ったら、閉鎖されたブログの中から見つけ出しました。サルベージして以下に転載します。


フランク・ライアン著 夏目大訳 「破壊する創造者~ウィルスがヒトを進化させた~」(ISBN:9784150504205)より

 

ダーウィンの説は「突然変異→自然選択」のループで進化が進んだとされているが、進化の推進力には突然変異以外にも「共生発生」「異種交配」「エピジェネティクス」が有るという主張。

「突然変異」は、放射線等の影響でDNAの配列が変化すること。

「共生発生」は共生生物が、宿主の一部に取り込まれてしまうこと。主としてウィルスのような寄生生物が取り込まれる事例が多く挙げられている。副題は、この事例がセンセーショナルであったことから付けられたのだと推測される。葉緑体が植物に取り込まれた例や、ミトコンドリアが動物に取り込まれた例は、もともと有名。その他にも、現在進行形でコアラのDNAにコアラレトロウィルスが取り込まれている。コアラレトロウィルスに感染していないコアラと、感染して生き残ったコアラはDNAの配列が異なるそうな。
いずれにしても、共生開始時点ではウィルスは宿主を大量虐殺する傾向があるらしい。その結果、生き残った適応力のある宿主群に対しては、恩恵を与える付き合い方に変化して、共存共栄を図るというのが、よくあるパターンとのこと。
妊娠時の母親にとって胎児は「他者」なので、母親の免疫による攻撃対象となりえる。そうならないように母親の免疫を抑制する機構というのは、過去にヒトがDNA中に取り込んだレトロウィルス由来の部分が関与しているとのこと。このようにDNA中に取り込まれたウィルスはヒト固有のものでも2000程度あるらしい。

「異種交配」は、ロバ+ウマ=ラマのように種の違う生物による交配で新たな種が発生すること。ラマは生殖能力を持たないが、ヒマワリ・小麦・トウモロコシのような植物では日常に異種交配により新たな種が発生しているらしい。またアンデス山脈の蝶で生殖能力を持つ交配種が発見された事例も紹介されている。

エピジェネティクス」は後天的な環境による形質獲得のこと。DNAの塩基にメチル基が付加されると、その塩基情報は発現しなくなる。そのような化学物質は他にも幾つかあるらしいが、この「メチル化」は細胞分裂後も娘細胞に伝達される。メチル化によって生存しにくくなれば自然選択によって、その個体は死んでしまうが、逆に生存しやすくなれば、そのような個体は確率的に増加することになる。

共生発生も異種交配も、広義には突然変異に含めても良いのではないかというのが部外者的な感想。ただし、狭義の突然変異では酔歩的にしか進化は進まないけれど、確かに「共生発生」や「異種交配」「エピジェネティクス」が発生すると、選択的に進化が促進されるので、進化の速度は向上するだろうとも思われる。

(2015年7月4日 初稿)