トリチウム

 2023年8月24日、東京電力福島第一原子力発電所に貯められていた処理水の海洋放出を開始しました。これに対し中国など東アジアの国々は強い反発を示す一方、日本政府は「科学的根拠に基づく行動」と繰り返すばかりで議論が噛みあう様子が有りません。

 処理水の海洋放出について、報道で知り得る内容を記載しておこうと思います。今回はトリチウムについてです。

 

 海洋放出している処理水にはトリチウムが含まれている事が問題視されています。トリチウムってスマホなんかに使われているリチウムイオン電池と何か関係あるのかと思い、調べてみたら関係ありませんでした。

 高校物理で習ったように、水分子は水素原子2つと酸素原子1つが結びついたものです。このうち水素原子は通常、1つの陽子(P)とその周囲を巡る1つの電子(e-)で構成されていますが、稀に陽子1つと中性子(N)2つの原子核から構成されているものもあります。この奇形の水素原子をトリチウム三重水素)と呼んでいます。

 奇形であっても水素は水素、化学的性質は通常の水素原子と何ら変わりありません。ですから、通常の水素原子とトリチウム、そして酸素原子が結びついた水分子は、通常の水分子と同じく0℃で凍り100℃で沸騰します。その他の挙動も全く区別がつきません。

 このように化学的性質は全く同じで中性子の数だけ異なる原子の事を高校の教科書では同位体と呼んでいました。中でもトリチウムのように崩壊して別の元素に変化するものを放射性同位体と呼びます。実は放射性同位体は自然界に頻繁に存在しています。有名処ではC14などが有ります。考古学遺跡などではC14により年代測定が行われますので、知っている人は多いでしょう。

 つまり、問題となっている処理水は濾過膜で十分に濾し取られた後の純水なのです。ストロンチウムヨウ素セシウムなどは最早含まれていません。ただ、その純水の一部が放射性同位体の水素原子と結合した水分子であって分離不能ということなのです。2011年3月の炉心溶融時に、注水しても注水しても炉内の水位が上昇しなかったあの時。あの時に逸走水として海洋へ流出した汚染水とは全くの別物だという事が分かりますよね。

 

 なお、今回の処理水を海洋放出せずに「蒸発させろ」「電気分解しろ」と主張する人が時々いるようです。蒸発させてもトリチウム原子が結合した水分子は、再び雨となって地表に戻ってきます。電気分解すると水素ガスになるため、もう少し上空まで昇ってゆきますが、放射性物質が環境に放出されるという点では変わりが有りません。どうやらトリチウムを環境に放出することは許容せざるを得ないように私は思います。

 ところで処理水の海洋放出に伴い食塩の買い占めや、逆に不買が問題化しています。食塩は海水から水分子を取り除いて製造するものですから、トリチウムの本質が分かっていない行動と言わざるを得ないでしょうね。